千葉県柏市に住むAさんは、自宅近くにあるX銀行のATMにて、自己名義のキャッシュカードを使用してお金を下ろそうとしました。
そうしたところ、いつの間にか口座の残高が100万円増えていることに気づきました。
身に覚えがなかったAさんは、それが誤振込みであることに思い至りましたが、「間違えたやつが悪い」と思ってそのお金を銀行の窓口で下ろしました。
後日、柏警察署の警察官から「先日X銀行でお金を下ろさなかったか。その件で話がある」と連絡があり、焦って弁護士に相談しました。
相談を受けた弁護士は、Aさんの行為が詐欺罪になりうることを指摘し、不起訴の獲得を目指すことにしました。
(フィクションです)
【不起訴の概要】
前回は、誤振込みされた金銭を引き出した場合に成立しうる罪を検討しました。
今回は、不起訴についてご説明します。
取調べや家宅捜索といった刑事事件の捜査は、基本的に捜査機関(特に警察)が主導となって行うものです。
こうした捜査の結果を踏まえて、最終的に起訴するか不起訴にするかは検察官が決定します。
起訴されればその事件について裁判が開かれることになる一方、不起訴となれば裁判が行われることなく事件が終了します。
有罪か無罪かという判断と有罪の場合の量刑は裁判で決めるので、不起訴となれば有罪となって刑罰が科されることはなくなると考えて差し支えありません。
検察官が不起訴の判断を下す理由は様々です。
代表的な理由として、①嫌疑なし、②嫌疑不十分、③起訴猶予、の3つが挙げられます。
これらのうち、③は裁判で有罪を立証できる見込みがあってもなお行われるものです。
刑事裁判のルールについて定めた刑事訴訟法には、以下のとおり規定があります。
第二百四十八条 犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。
裁判は被告人をはじめとする関係者全員に種々の負担や不利益が伴うことから、事件の重大性などを考慮して敢えて起訴を見送るというものです。
実務においては、特に考慮されやすい事情として被害者との示談が挙げられます。
【不起訴になる可能性はどの程度か】
先述のとおり、不起訴になる可能性がどの程度あるかは個々の事件によって異なります。
今回は、上記事例に基づき不起訴の可能性について検討してみます。
まず、上記事例のように他人の金銭を自己のものにするケースでは、必ずその金銭を失った被害者が存在します。
そこで、弁護活動としては、第一に被害者との示談交渉が考えられます。
前回ご説明したように、上記事例において成立する可能性のある罪は窃盗罪や詐欺罪です。
これらはいずれも個人の財産を害する罪であることから、処罰の当否を検討するに当たっても被害者の意思が多いに考慮される傾向にあります。
そのため、もし被害者との示談が成立すれば、不起訴の可能性は高くなるでしょう。
加えて、もし詐欺罪の成否が問題となる事案に当たる場合、科されるおそれのある刑は10年以下の懲役という重いものです。
執行猶予が付く可能性はあるにしても、詐欺罪の成立が肯定できるあらゆる事案にこの範囲の懲役刑を科すのは妥当でないように思えます。
特に、誤振込みのケースについては、自己の口座に金銭があることから誘惑されるのも不思議ではないと言えます。
また、初犯であれば厳罰を加えることはより消極的になるでしょう。
これらの点からも、軽率に起訴をして有罪にすることは躊躇されると考えられます。
以上の点から、弁護活動次第では、上記事例において不起訴を獲得できる可能性はそう低くないと言えます。
自身の事案はどうだろうとお思いになったら、ぜひお近くの弁護士にご相談ください。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件に特化した弁護士が、不起訴に関する疑問に対して的確なご回答をいたします。
誤振込みに関して詐欺罪や窃盗罪などを疑われたら、刑事事件・少年事件専門の弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
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