傷害致死罪と正当防衛

傷害致死罪と正当防衛

傷害致死罪と正当防衛について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所千葉支部が解説します。

【ケース】

会社員のAさん(25歳・女性)は,仕事帰りに千葉県鎌ヶ谷市内の駅で電車を待っていたところ,泥酔した様子のVさん(推定50代・男性)に声をかけられました。
Vさんは近づいてきてAさんの身体を触ってきたため,Aさんは「やめてください。警察呼びますよ」といってVさんと距離を取りました。
それでもVさんがしつこく絡んできて,Aさんの肩を抱いて胸を触ってきたため,Aさんは咄嗟にVさんの肩を腕で軽く押しました。
そうしたところ,Vさんがバランスを崩して線路に落ち,ちょうどホームに到着した列車と衝突しました。
これによりVさんは即死し,Aさんは鎌ヶ谷警察署で取調べを受けることになりました。
Aさんから相談を受けた弁護士は,傷害致死罪が成立する可能性があることを指摘したうえで,正当防衛を主張する余地があることを説明しました。
(フィクションです。)

【傷害致死罪について】

刑法(一部抜粋)
第二百五条 身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期懲役に処する。

傷害致死罪は,殺人罪と同様,他人を死亡させた場合に成立する可能性のある罪です。
殺人罪との違いは,殺人の故意をもって行為に及んだかどうかという点にあります。
つまり,他人を殺すつもりはなかったものの,故意に暴行を加えるなどして結果的に死亡させた場合に,傷害致死罪が問題となります。
ちなみに,故意ではなく過失(簡単に言えば不注意)により他人を死亡させた場合,傷害致死罪ではなく過失致死罪として処罰されます。

今回のケースでは,弁護士が指摘しているように,結論として傷害致死罪の構成要件に当たる(この表現については後述)可能性があります。
ただ,AさんはVさんに傷害を負わせるつもりはなく,せいぜいVさんを引き離そうという暴行の故意しかなかったと考えられます。
このことから,傷害致死罪に当たるという結論は妥当でないようにお考えの方もいらっしゃるかもしれません。
ですが,実務上は傷害致死罪の成立が認められる傾向にあります。
その理由としては,故意に暴行を行っている時点で非難を受けるべき立場にあり,それにより生じた結果についてはきちんと責任を負うべきだからだと説明されます。
以上から,Aさんに傷害罪の故意がなかったからといって,傷害致死罪の成立が否定されるわけではないということになります。

そして,Aさんの行為とVさんの死亡との間には因果関係が認められることが見込まれます。
そうすると,Aさんの行為は傷害致死罪の構成要件に当たるでしょう。

【正当防衛の主張】

仮に犯罪に当たる行為をしたとしても,一定の事情があることを理由に犯罪の成立が否定されることがあります。
今回のケースでは,Aさんが性被害から逃れようと行為に及んでいることから,正当防衛の成立により行為の違法性が否定されないか検討する余地がありそうです。

第三十六条 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

今回のケースで最も問題となりうるのは,Vさんの死亡という極めて重大な結果を招いたAさんの行為が,Aさんの権利・利益を守るうえで果たして適当だったかという点でしょう。
本来,権利・利益の違法な侵害に対する救済は国家が行うべきであり,正当防衛のように自ら救済を実現するのは違法とされています。
このような考えから,いくら正当防衛の名目であっても,不必要に他人の権利・利益を侵害するのは許されていません。
正当防衛について定めた刑法36条1項が「やむを得ずにした行為」であることを要求しているのは,正にこの考えを明言していると言えます。

それでは,Vさんの死亡を招いたAさんの行為は「やむを得ずにした行為」には当たらないのでしょうか。
結論から言うと,Aさんの行為は「やむを得ずにした行為」に当たる可能性があります。
ここでいう「やむを得ずにした行為」とは,結果ではなく行為が相当な限度(「必要最小限」などとも表現されます)であることを要求していると考えられているからです。
今回のケースにおいて,Aさんの行為はVさんの肩を腕で軽く押すというものであり,AさんがVさんを線路に突き落として轢死させようなどと考えていたとも思えません。
そうすると,Aさんの行為は正当防衛を達成するうえで必要最低限のものであり,たまたま重大な結果が生じたに過ぎないと評価できます。
以上より,Aさんの行為は「やむを得ずにした行為」であり,正当防衛としてAさんに傷害致死罪は成立しない余地があります。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件のプロである弁護士が、正当防衛のような難解な概念も丁寧に説明いたします。
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