署名・押印の持つ意味

警察官,検察官から取調べを受けると,被疑者(犯罪の嫌疑がかけられている人のことを言います。)が話した内容は書面にまとめられます。

この書面のことを調書と言います。

この調書は,裁判になった場合に重要な証拠として取り扱われます。

そして,この調書に対してする署名と押印は,法律上極めて重要な意味を持ちます。

ここでは,調書が裁判において重要な証拠となる理由と,調書に対する署名・押印の持つ意味についてご説明します。

 

調書が裁判において重要な証拠となる理由

裁判になった場合,検察官はこれまで作成された調書を,証拠として裁判所に提出します。

被疑者の依頼を受けた弁護士は,この調書を証拠とすることに反対することができます。

調書は被疑者が話した内容をまとめたものであるため,本来なら法廷で被疑者(裁判になった場合は,被告人と呼ばれます。)本人が話せば済むことです。

そこで,法律は調書を証拠とするには,被告人と弁護士による同意があることを条件としています(刑事訴訟法320条1項,同法326条)。

弁護士による同意がなければ,その調書は裁判で使うことができません。

もっとも,これはあくまで原則であることに注意が必要です。

法律は,被疑者にとって不利な内容の調書であれば,弁護士の同意がなくても証拠にできると規定しているからです(刑事訴訟法322条1項)。

人が嘘をついてまで自分に不利なことを話すとは考えにくいため,不利な内容が記された調書は,信用できるというのがその理由です。

しかし,逮捕による身体拘束が続くなか,長時間の取調べに疲れて,本当はやっていない罪を認めてしまうことはありえます。

その場合,犯罪の自白という不利な内容の調書が作成されてしまうため,弁護士が同意をしなくても裁判の証拠にされてしまう危険があります。

そして,ひとたび調書が作成されてしまうと,裁判になってから争うのは非常に困難になります。

 

それでは,不利な調書が証拠とされないように,黙秘権(刑事訴訟法198条2項)を行使すればよいのでしょうか。

確かに黙秘は取調べ対応として重要な権利なのですが,いざ黙秘を貫こうとすると,とても難しいことが分かります。

警察官,検察官は取調べのプロであるため,巧みな尋問に弁解しようとして,つい話してしまうことはよくあることです。

また,黙秘を維持したとしても,「このような質問をしたが,被疑者は黙して語らない。」といった調書が作成されることもあります。

 

そこで知っていただきたいのが,調書への署名・押印の拒否です(刑事訴訟法198条5項但書)。

署名も押印もない調書は,いかに不利な内容であっても,裁判で証拠として使うことができないからです(刑事訴訟法322条1項)。

つい口が滑って黙秘に失敗することは多いですが,署名・押印に関しては,こちらからアクションを起こさなければ良いため,黙秘よりはやりやすいとうメリットがあります。

以上のように,調書が裁判で重要な証拠となること,署名・押印の拒否が調書作成に対する重要な対抗手段であることがお分かりいただけたかと思います。

署名・押印の拒否を始めとした取調べ対応は,法律の専門家である弁護士の助力を得るのが一番です。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所千葉支部では,刑事事件を扱う弁護士事務所として,事件に応じた適切な取調べ対応のアドバイスを行います。

取調べ対応は裁判の帰趨を左右しかねない重要な局面であるため,ご不安な場合はぜひともご相談ください。

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