司法取引という言葉を聞いたことがある方もいると思います。
簡単に説明すると,被告人(検察官に起訴されて刑事裁判にかけられている人のことを指します)が有罪を認める代わりに,検察官が一部の罪を起訴の対象から外す,あるいは求刑を軽減するなどして,最終的に科される罪を軽くするという制度です。
日本での司法取引は協議・合意制度と呼ばれます。
もっとも,同制度は海外で行われている司法取引とは異なる点もあるため注意が必要です。
最も大きな違いは,日本の協議・合意制度は,他人の刑事事件について真実を供述することに限定されている点です(刑事訴訟法350条の2第1項柱書)。
協議・合意は被疑者(罪を犯したと疑われている人で,まだ起訴されていない人のことを指します),被告人と検察官の間で行われます。
被疑者,被告人は取調べや証人尋問において真実を供述し,また,証拠の提出等の協力を行います。
これに対して,検察官は,そもそも起訴を行わず被疑者を刑事裁判にかけない,いったん行った起訴を取り消すといった措置により,被疑者,被告人にとって処分が有利になるように取り計らいます。
協議・合意制度が存在することで,被疑者,被告人は自身に対する処分が軽くなる機会を得ます。
他方,検察官も処分が有利になることを期待した被疑者,被告人から真実の供述,証拠の提出を引き出すことによって,事案の真相解明や捜査,立証負担の事実上の軽減を期待することができます。
このように,協議・合意制度がうまく機能すると,被疑者,被告人と検察官,双方にとってメリットが生じます。
協議・合意制度が適用されるのは,詐欺罪や独占禁止法違反など,一部の犯罪に限定されていますが,これは共犯者による捜査協力が特に重要と考えられる犯罪がピックアップされているためです。
他方,被疑者,被告人が処分の軽減を求めるあまり,虚偽の供述を行うリスクも生じます。
自身の罪について虚偽の自白がされてしまうことももちろん問題ですが,協議・合意制度は他人の刑事事件に関する供述,証拠の提出を促すものなので,第三者を巻き込んだ虚偽供述がされて,冤罪を巻き起こす危険も否定できません。
それゆえ,協議・合意制度は被疑者,被告人と検察官だけですることはできず,必ず弁護人の同意が必要となります(同法350条の3第1項)。
なお,協議・合意制度と同時期に,刑事免責の制度も開始されます。
刑事免責は,ある証言をすることで自身が刑事責任を問われる可能性のある証人に対し,当該証言を証人に対する不利な証拠としない代わりに,証言拒否権を行使させない制度です(同法157条の2)。
以上述べたとおり,協議・合意制度は被疑者,被告人と検察官の双方にメリットをもたらす半面,虚偽供述によって冤罪を生み出すおそれも孕んでいます。
協議・合意制度には弁護人の関与が不可欠であることからも,弁護士は法の専門家として,同制度のリスクに目を配りつつ,依頼者である被疑者,被告人にとって最善の結果となるよう,制度を活用していく必要があります。
弁護人の判断一つで結果が大きく変わりうるのが協議・合意制度であるため,罪を犯したと疑われている被疑者,被告人の側からしても,慎重に自身の権利を守る弁護人を選ぶ必要が生じてきます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務千葉支部では,刑事事件を扱う弁護士事務所として,法改正,新制度にも造詣の深い弁護士による弁護活動を提供します。
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